新型コロナウイルス感染症に対する臨床対応の考え方 4/2日本感染症学会

新型コロナウイルス感染症に対する臨床対応の考え方

 ~医療現場の混乱を回避し、重症例を救命するために~

                            日本感染症学会より

 

1.新型コロナウイルス感染症に対する検査

PCR法等による遺伝子検出法(鼻咽頭ぬぐい液、あるいは喀痰)に加え、イムノクロ

 マト法による抗体検出法(血液、血清)の利用が検討されている。

・イムノクロマト法による抗体検査は、発症から2週間以上経過し、上気道でのウイル

 ス量が低下し、PCR法による検査の感度が不十分であることが想定される症例に対す

 る補助的な検査として用いることが望ましい。

・地域の流行状況によるが、PCR検査の原則適応は、「入院治療の必要な肺炎患者で、

 ウイルス性肺炎を強く疑う症例」とする。軽症例には基本的には、PCR検査を推奨し

 ない。時間の経過とともに重症化傾向が見られた場合にはPCR法の実施も考慮する。

・指定医療機関だけでなく、全ての医療機関において医師の診断においえ検査が行える

 体制を整える。

・抗体測定法を用いて、地域の感染率に関するサーベイランスを実施する。

 

2.軽症例を受け入れる施設の認定および自宅安静の判断

・感染指定医療機関のベッドが重症例で満床になる場合には、軽症例を受け入れる指定

 医療機関以外の施設を用意する必要がある。特に、新型インフルエンザ等特別措置法

 に規定されている、指定公共機関や指定地方公共機関に該当する医療機関は、事前に

 作成したBCPに基づき、診療体制の変更を行い、地域全体での診療体制を調整する必

 要がある。それでも、ベッドが不足する事態が想定される場合には、自宅安静の選択

 肢も考慮する。

・全身状態が良好で、胸部画像、血液検査からも軽症と考えられる臨床診断例(イムノ

 クロマト法陽性例)で、基礎疾患の有無などから入院は必要ないと判断される症例

 は、自宅安静で対応することも考える。

・ただし、高齢、基礎疾患の存在、独居などの要因から重症化が予測される場合には入

 院とする。

・自宅安静となった患者に対して、1日1回電話連絡による健康状態の確認ができるよう

 な体制を確立する(体温測定、食欲、だるさなどを2週間)。症状の悪化がみられた

 場合には、医療機関と連絡を取りながら、飛沫・接触感染防止策を徹底した上で、公

 共交通機関を使わない方法での受信をお願いする。

・自宅安静となった場合、家庭内での感染が広がらないよう、こまめな換気に加え、飛

 沫・接触感染対策の徹底を指導する。家庭に感染症状がみられた場合には、速やかに

 医療機関に連絡するように説明する。

・外来(開業医などの)オンライン診療と処方、保険診療の認可について検討する。

 

3.重症例を見逃さない、救命のための対応

・肺炎画像の広がりの程度、低酸素血症の存在、血液検査異常(リンパ球減少、赤血球

 減少、CRP高値など)などを指標に、重症化を察知し、対応する。

・長引く倦怠感、食欲不振、高熱などの持続なども参考に重症例を見逃さないように対

 応する。

・低酸素血症が強く、酸素化が維持できないような症例に対しては、人工呼吸器、膜型

 人工肺(ECMO)などの適応も考慮する。ECMOは限られた施設で行われる対処法で

 あり、その導入に関しては日本感染症学会ホームページの情報を参考に専門機関と相

 談する。

 

4.治療法の選択

・現時点での特異的な治療薬はないことから対症療法が中心となる。

・アビガン、クロロキン、オスベスコ、カレトラなどの薬剤の有効性が報告されている

 が、確立した治療法ではない。現在、日本感染症学会も関与して臨床試験が進行中で

 ある。これら薬剤は適応外となるが、その早期使用の必要性も含めて議論されてい

 る。

・日本感染症学会ホームページで公開されている症例報告の治療経験を参考にする。

・挿管期間が長くなる場合には、2次性の細菌性肺炎の合併率が上昇することにも留意

 する。

 

5.退院基準と退院後のフォローアップ

・全身状態および呼吸器症状が改善し、血液検査および画像所見の改善をもって退院を

 考慮する。

・症例の軽快後もPCR検査の陽性が持続する症例を考慮し、症状の改善を指標とする退

 院基準を考える必要がある。

・退院後も2週間は電話連絡などによる健康チェックを行う。この間はできるだけ外出

 控えるように指導する。

 

6.海外からの帰国者への対応

・海外からの帰国者に関連した症例の急激な増加が認められている。

・海外からの帰国者は、無症状であっても基本的に2週間は自宅待機とする。発熱、呼

 吸器症状などがみられた場合には、帰国者・接触者相談センターに連絡する。

・帰国時に症状がある場合には帰国者・接触者外来への受診へ誘導する。その後の対応

 は上記に従う。

 

7.感染者および医療従事者に対する精神的ケアの必要性

・感染者が退院したのち、あるいは2週間の観察期間の中で、地域の中で差別が生じて

 いないかどうか、電話連絡などで確認する体制が必要となる。

・医療従事者は、診察・感染対策にあたって細心の注意を払っていることもあり、強い

 精神的ストレスを受けていることが多い。新型コロナウイルス感染症の診断・感染対

 策に従事している者に対しては、精神科医産業医などによる定期的なこころのケア

 を受けられるシステムを構築しておく必要がある。